廃棄都市・1

体を降り、改めて見回した。
そこは、一面の廃墟。


かつて使われていたであろう公共施設の跡、
機能していた都市の残骸。
破壊され尽くされ、今や風化しているそれらは、
やがて廃棄都市と呼ばれるようになっていた。


遷都してからというもの荒廃が進み、
やがてモンスター達が出現し、誰もが寄りつかなくなった場所。
ごく一部の、金目当ての冒険者を除いて。


そう、僕もそのひとりだった。
MFATを振り返り、そしてまた視線を元に戻す。


そこには、ただひとつの灯り。
無機質なこの都市で、唯一の生きた場所。
今日も僕は、そこを訪れる。


「こんにちは」
「おう、久しぶりじゃねえか」
店には誰もいない――店主が振り返り、しゃがれた声で応える。
「久しぶりって、こないだ来たばっかりですよ」
「いや、1日経っても来なかったら、もう『久しぶり』だな」


店中に珈琲の香りが漂う。薬品を調合する妙な匂いと混ざる。
しかし、不快感は感じない。
「大体お前さん達、一日でも俺の店に来ないって事は」
頼んでもいないのに、目の前にカップが置かれる。
「その辺の化け物に喰われたか、俺の店以外に浮気してるって事よ」
「…まあ、否定はしませんけど」
「後者か。この店たらしめ」
「何ですか、それ。僕だっていつも此処に来る訳じゃないですよ」


そう、此処に来るには――必要なものが多過ぎる。
沢山の予備機材や燃料の類、MFAT自体のメンテナンスや改造。
そして、自分自身の、命の覚悟も。


「確かに、此処はそうそう来るとこじゃねえな」
店主は一瞬目を細め、斜めに視線を落とした。
調合器を磨く手は休めずに。
僕は、はっと気付く。

触れてはいけない

「此処に、住んでらっしゃるんですか」
――思いより先に、言葉が出てしまった。
「当たりめぇだろお前さん。
何を好きこのんで通勤しなきゃなんねえんだ」


皺の刻まれた頬が、ふっと緩んだ。
「今日の化け物退治は終わりかい」
「あ、あまり遅くなると、家族に怒られるんですよ」
「家族か」
「まあ、もう3日以上は帰ってませんけど」


視線を合わせないまま、彼は呟く。
「常連さんよ、少しだけ、この化け物の都の話でも聞いてかねえか」


僕は唾を飲んだ。
何だろう、この動悸は…慌てて目の前のカップに口をつける。
苦い――だけど、軍より支給されている飲料の類とは、何かが違う。



彼の話は、それが始まりだった。


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