freinage・2

床にはCDが散乱していた。
何やってんだ――言葉を、飲み込む。
いつだってそうだ。
言いたいことが言えた試しはない。



雪が顔を上げた。
「カノ、カノは」
「駐輪場にいた」
「よかった」
呟いてカノをじっと見つめる。
今、彼女の視界に、俺は映っていない筈だ。
いるとするならば、ただ、猫を抱える為のマネキン。



「やめてよね、窓の鍵閉め忘れるのとか。
カノが勝手に外に出たら危ないでしょ、ほんと」
口調がふいに攻撃的になる。
「もっと構ってあげたら?ほっとくからこんなことになるんでしょ」
言葉が進むにつれ口調は激しくなり、雪の瞳が輝いて見える。
「誰の猫なのよまったく」
「…どういうことだ、それ」
「え?」
止まらなかった。
「どういうことだ、って、訊いてるんだ」



雪は歌を歌っている。
メジャーデビューはしていない。
事務所に所属し、ボイストレーニングに通い、
たまに仕事も請ける。
俺は女性誌に化粧品のコピーを書いたり
百貨店のパンフレットをデザインしたり
まあ、フリーで色々やっている。
彼女とは友人の紹介で知り合った。
付き合う事になり、同棲する事になり、多分知り合ってから6年は経つだろう。


おにいちゃん。
雪は俺の事を、そう呼んでいる。
知り合ったときから、
付き合って。
一緒に部屋を選んで。
何回も抱き合っていたそのときすら、ずっと。



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